コラム

「不妊」について

男性不妊(3)

不妊の男性因子には、精液の中の精子の数、精子の運動能、精子が精巣で造られているか、セックスができるかなどの因子があります。 
精液の中の精子の数や運動能は、精液検査を行えば一目瞭然です。検査の結果が思わしくなければ、その原因を探るために次のステップへ進みます。精液を顕微鏡で覗くと、正常な場合、そこでは70%以上の精子が元気に動きまわっています。そして1ミリリットルの精液の中に、5000万~1億程度の精子が存在しています。これが少ない場合を乏精子症、全く精子が見られない場合を無精子症といい、運動能力を持つ精子が50%以下の場合を精子無力症といいます。もっとも、日本では精子の数の正常基準値を1ミリリットルあたり5000万以上としていますが、WHOでは2000万以上としています。精液検査での結果が思わしくなければ、もう一度精液検査をしてみるということも大切です。検査時期をずらしたり、医療機関を変えるなど、すこし環境を変えただけで精液検査の結果がよくなることもしばしばあります。
女性の体と同じく、男性の体も精子に関してはとてもデリケートです。その時の精神状態やストレス、健康状態などにより、精子の数や運動能は異なります。ですから時期や医療機関を変えて再度検査を行い、2度目の検査でも結果が同じならば、そこから解決策を考えればよいのです。

体外受精が第一の選択肢になるのは、重度の乏精子症、精子無力症、そして精液中に精子が無いのに精巣には精子があるという場合です。
精巣から直接精子を採取できれば無精子症でも顕微授精が適応となります。顕微授精はたった1つ、質の良い精子があれば受精は可能です。
ヒューナーテストは、その見解が大きく分かれる検査です。この検査は、女性の体内で精子が正常に動いているかどうかを調べるのですが、精液検査と同じくとてもデリケートで、二人の体調やその時の状況で結果は変わってきます。ヒューナーテストの結果がよくないといわれても、その後タイミング法などで妊娠することもよくあります。ヒューナーテストについては、いろいろな見解がありますが、1回でも検査結果が良ければそれで十分だと思います。

ストレスの多い現代社会のせいでしょうか、精子の状態が万全でない男性が極めて多くみられます。過去のおたふく風邪や、高熱の影響などで精子の状態が悪くなってしまった男性もいます。ある医療機関では、患者さんの8割以上で運動率が一定に達していないということで顕微授精の適応になっているという驚くべき事実もあります。この高い数字は、必ずしも一般的な割合ではないと思いますが、ご主人の検査がいかに大切なものであるかを物語っていると言えるでしょう。しかし逆にいえば、精子の場合、このような手段が存在するため、ほとんどのケースでは、技術を借りて受精能力のある精子を選別することができ、男性不妊にとっては画期的な状況といえます。一世代前には、お子さんを授かることをあきらめなければならなかったケースも、あるいはそういう状態であることを知らずにいつしかお子さんを授かることを諦めていたケースも、今ではこの顕微授精の適用によってお子さんを授かることが可能となっています。但し、確率的には極めて低いのですが、稀に無精子症である場合もあります。その場合は、精巣精子回収術などが試みられる可能性を検討することになります。もちろん、勃起しない、射精できない、といった症状がある場合は、初めから泌尿器科検診が必要となります。

女性については、年齢が「妊娠適齢期」と「妊娠偏差値」の鍵を握っていますが、男性の場合は、実年齢については女性ほど深刻な影響はないようです。もちろん、年齢が若い方が良い結果になる、といった傾向はあるものの、精子については、常に新しいものが生成されているので、女性の場合ほど年齢がすべてを物語らないのです。精子の状態も、その男性がいかなるスポーツマンで屈強な身体をしていても、検査をしてみなければ受精能力については分からない、ということになります。今、体外受精において顕微授精という手段があるため、精子の提供を受けなければ受精は不可能、というケースの割合はぐんと減少しています。ですから、ご主人には、「結果が多少悪くても、絶対に子どもが授からないという可能性はとっても低いから、心配しないで出かけてね」と優しく促してください。それから、ブライダルチェック(花嫁検診)のセットとして、男性側の検診も同時に行ってくれるクリニックもあります。
二人揃って最初から出かけてしまうのもちょっと恥ずかしいかもしれませんが、二人の将来のためにとっては良いことだと思います。

最後に、男性不妊の改善に効果のある食品やサプリメントをご紹介します。
精子は、活性酸素の攻撃を受けやすいため、活性酸素を消去する働きのある抗酸化ビタミンを緑黄色野菜や果物からとるようにします。
またそれを補完するため、ビタミン剤(ビタミンECB12など)やサプリメントも活用して下さい。これは、精子運動率の改善に繋がります。
トマトを加熱処理したトマトソースやトマトジュースなどに含まれるリコピンも、精子運動率の改善に効果があるそうです。
精子濃度の改善には、ビタミンB12や葉酸が有効とされています。
亜鉛は、精液量を増やす効果がありますが、精子数(造精機能)には影響を与えないと言われています。しかし亜鉛不足は、抗酸化力を落とす可能性があり、成人男性で112mgといわれる推奨摂取量を維持して下さい。
南米ペルー原産の「マカ」は、必須アミノ酸の含有バランスがよく、鉄や亜鉛を豊富に含み、アルカロイドやフラボノイドといった植物性有機化合物も多数含まれていますので、滋養強壮植物としては貴重な存在といえるでしょう。

またマカには、成長ホルモンの分泌に深く関係しているアルギニンという必須アミノ酸が含まれており、精子をつくる機能もサポートすると言われています。
軽度の乏精子症や精子無力症には、非ホルモン療法として、漢方薬やビタミン剤とともにLカルニチン、コエンザイムQ10などのサプリメントが処方されることもあります。