コラム

不妊大国ニッポン

不妊大国ニッポンの現状

数年前、産婦人科の現場を舞台に、様々な人間模様をドラマ化した番組が人気を博していました。視聴率が良かった理由ですが、人気俳優が主役を演じただけでなく、その題材が多くの人の周りにある現実だったからだと思います。
ところで子供を望んでいる人は非常に多いのに、なぜ世の中では少子化が問題になっているのでしょうか。不妊治療を受けている人の数はなぜ増加傾向にあるのでしょうか。もう一度妊娠・出産の現状を振り返ってみましょう。

一般に避妊をしないで妊活をしていても、2年以上妊娠しない場合不妊症と診断され、その患者数は世界中で増加しているそうです。不妊症と診断されるカップルは、一般的には1015%の割合でどの国にも存在しているそうですが、日本では晩婚化と晩産化によって、不妊をより深刻化させているようです。
近年、女性の平均初婚年齢は29歳となっており、新生児の約6割は30代のママから生まれているのです。ドラマの中でも言っていましたが、卵子は齢をとって行くもので、不妊治療を先送りすると妊娠の可能性はどんどん下がってしまいます。一説によると、今不妊治療を受けている人の90%は、10年前に妊活をしていれば自然妊娠していただろうと言われています。

現在、日本には不妊治療を行っている病院・クリニックが約600軒あるそうです。アメリカですら500軒無いと聞いていますし、世界一の人口を抱える中国で約300軒だそうです。日本は世界一の不妊治療大国になってしまいました。

また日本は、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療(ART)の治療件数では世界一です。2015年にはそのART51,001人の赤ちゃんが誕生しており、同年の出生数が1,005,677人であるため、日本の現状は20人に1人がART由来であると言えます。
ドラマの中では、不妊治療は自然妊娠を促進する治療をすることではないと示唆していましたし、「子供を授かるために医療の力を借りることは、恥ずかしいことでも、特殊なことでもない」と言っていました。
先端医療の力を借りて子供を授かることが当たり前の時代が既に到来しているのです。そういう時代になっているにも拘らず、正しい情報が身近にあるかというと、必ずしもそうではなさそうです。

少し横道にそれますが、昭和20年代を振り返ってみましょう。

日曜日の夕方放送される「サザエさん」が発表されたのは昭和214月です。サザエさんの実家である磯野家の家族構成はその頃の日本ではごく普通だったのでしょう。磯野家の主婦であるフネさんは、今の感覚ではおばあさんに見えますが、作者である長谷川町子さんが想定した年齢は48歳です。波平さんは55歳定年の時代でまだ現役ですから53歳位でしょう。サザエさんは20代前半で既にタラちゃんの母親です。ワカメちゃんはフネさんが39歳の時に出産した末っ子だそうです。20代前半から家族の世話に明け暮れてきた昭和半ばの40代女性と、社会進出を果たし自分で稼いだお金でファッションや化粧やエステに投資できる現代のアラフォー以降の女性とではセルフイメージが大きく違っても仕方がないですよね。でも、外見が大きく変わっても卵巣は昔と変わっていません。女性が出産できる限界年齢は延びていないのです。それどころか、古い統計と現代を比較すると、昔の女性の方が生殖機能が強く、遅くまで出産できたようです。
晩婚化・晩産化が進行してしまっている現実を踏まえて、これからの家族の姿・在り方に焦点を当てた社会のカタチを考えなければいけません。

少子化は日本の大きな社会問題ですから、不妊は日本の未来を左右する大問題です。しかし不妊治療を支援することが、少子化の解決に直結するとは限らないでしょう。何故、今、不妊治療を応援しているのかを考えた時、相矛盾するかもしれませんが、不妊治療に頼らざるをえない人を減らすことがより重要なのだとの結論に達しました。不妊治療を応援するというささやかなアクションを通して、より健全な社会作りに貢献することが私たちの目的でなければいけないのだなあと強く感じます。より健全な社会作りを目指して、不妊に悩む方やその予備軍というべき方々に正確な知識の伝達をすることは大変重要です。女性が若くして子供を産める社会作りのためには、保育所の整備、多様な雇用制度の確立、等々に加えてシングルマザーや婚外子を認めることなども真剣に議論すべきではないでしょうか。諸外国の婚外子の比率を見てみると、フランスでは50%を超えており、アメリカは40%に達しているのに対し、日本は僅かに2%で先進国の中では極めて低い現状です。

不妊は、個人の問題ではなく現代社会の悲鳴です。新たな不妊患者が生まれない新しい社会システムを構築できるかどうかに、この国の未来が懸かっている気がします。 

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