コラム

「不妊」について

男性不妊(2)

「妊娠しない」という現実に対して、とかく原因は女性側にあるように考えてしまいがちですが、何と、約4割は男性側が原因ということが分かっています。これを男性不妊といいます。
今更ながら当たり前のことですが、妊娠が成立するためには3つの要素が必要となります。それらは、「卵子」、「精子」、「子宮」です。卵子と精子が無事出会って受精し、受精した後にできた「受精卵(胚)」が子宮内膜に着床(妊娠成立)しなければなりません。これらの3つの要素が揃わなければ、「妊娠」という第一歩が成立しません。
これは、とっても当たり前のことですから、「なんだ、そんなことは誰でも知っている」と思われるかもしれません。しかし、厳密にいうと、これは「生殖力のある卵子」と「受精卵が着床可能な子宮」と「受精能力のある精子」が必要である、と言い換えることができます。もちろん、女性が担当するのは、いうまでもなく、このうちの「卵子」と「子宮」です。男性が担当するのが「精子」です。
まず不妊検査ですが、女性に比べ、男性の検査はとても簡単で、精液検査と感染症の採血のみです。精液には量の問題と質の問題があります。量の問題とは精子数が少ない事、そして質の問題とは動きが悪い事です。近年、男性の精子数が減少している地域がある、と言われています。原因としては、環境汚染や農薬などの環境因子や内分泌攪乱因子が関係していると考えられていますが、詳しいことは判っていません。結果として、男性不妊は日本だけでなく世界中で増えているようです。
男性不妊の原因には、大きく分けて次の三つが考えられます。

1、造精機能障害:精子を作る「精巣」の機能に問題がある場合。精子の数が少ない  (又は無い)、運動率が低い、健康な精子が少ない。
2、精路通過障害:精子は作くられているが、通り道の「精管」などに問題がある場  合。射精した精液に精子が少ない、又は含まれない。
3、性機能障害:ED(勃起不全)や射精障害のため、精液を射精できない場合。男性  不妊症でもっとも多いのは造精機能障害で、約70%を占めています。
性機能障害を除けば、自覚症状はほとんどありませんので、射精できるから大丈夫と考えがちです。しかし精液に健康な精子が十分含まれているかを知るためにも、一度は検査を受けて下さい。

近年、卵子の老化ということをよく耳にしますが、精子も加齢による影響は大きいと考えられています。精子の質は10代がピークで、精子の数は35歳以降で毎年1.71%低下、精子の運動率は44歳以降で毎年1.74%低下します。

精液検査では、WHOの新基準(2010)を基に、次の項目について調べます。
1、精液の量:1回の射精で、精液の量が1.5mL以上あるか。
2、総精子数:1回の射精で、精子の数が3900万以上あるか。
3、精子の濃度:精子の数が、精液1mL中に1500万以上あるか。
4、精子の運動率:精子の活動性を見て、活発に動いている精子が、全体の40%以  上あるか。
5、精子の正常形態率:形のよい精子が全体の4%以上あるか。
これらの基準はあくまでも目安です。基準値を下回っていても妊娠した例は数多くあります。また、精子の状態は採取したときの心身の状態によっても異なるため、通常は複数回検査を行ってから不妊症かどうかを診断します。

精液検査で不妊症が疑われた場合には、次の検査で原因の確認を行います。

1、精巣の大きさ : 一般的に精巣の大きさは精子の数に比例すると言われ、精巣が小さい場合は、精子の数も少ないと考えられます。
2、精巣の炎症の有無 : 尿中の細菌やおたふくかぜのウイルスなどが原因で精巣に炎症が起こると、精子をつくる機能が低下することがあります。
3、精索静脈瘤の有無 : 精索静脈瘤は、精子をつくる機能を障害する代表的な病気  で、精巣から心臓へ流れる静脈の血液が逆流し静脈の一部がこぶ状に膨れるも  のです。静脈瘤にたまった血液によって精巣が温められるため、精子をつくる機能  が低下します。
4、ホルモンの値 : 生殖能力に関わるホルモンの分泌量を調べます。ホルモンバランスが崩れていると、精子をつくる機能が低下します。

現代社会には、精子の数と運動率の両者を低下させる要因となる様々な生活習慣があります。それは、カロリーが高く栄養価の低い食品の摂取、不規則な食生活、多量の喫煙や飲酒、精神的・肉体的なストレスや疲労感などです。

精子の質は、生活習慣を見直すことで飛躍的に改善すると言われています。精子の状態は、全身の健康状態を表すバロメーターにもなります。
ED
などの機能障害も、生活習慣の変化と共に潜在的に増えています。まずはストレスを減らすことが大切ですが、医療機関では内服薬を処方することもあり、膣内射精をできない場合には、人工授精が選択肢になります。

潜在的な男性不妊症患者は、推計60万~80万人いると言われています。

精液検査を行った結果、精液中の精子の数が少ない乏精子症は、多くの場合人工授精や体外受精が必要になります。
乏精子症の原因の一つと考えられる精索静脈瘤があった場合は、外科手術が基本になります。乏精子症患者の多くに、精索静脈瘤があり、男性不妊の最も多い原因と言われています。治療は、静脈瘤ができている血管をしばり、血液の逆流を止めることです。術後は、精巣内の温度が下がることなどから、精子が形成されやすくなります。
また無精子症と診断された場合でも、精巣や精巣上体で精子を見つけ、その上で顕微授精を行なえば、妊娠の可能性があります。

男性不妊への最後の解決策として、AIDという方法があります。

これは非配偶者間人工授精のことで、無精子症など絶対的男性不妊の場合に適用される治療法です。ドナーの精液を使用し、人工授精にて妊娠を試みます。
男性不妊に対するあらゆる治療を行ったにもかかわらず、 妊娠に至らず、それでもどうしても子供が欲しいという場合に選択されます。
この方法での妊娠希望者については、ご夫婦の意志を十分に確認したうえで、以下の2つの場合に当てはまるかを厳格に判定し行うことが一般的です。
適応するのは、無精子症の場合、または精巣精子回収術(TESE)を行ったが精子が認められなかったまたは微量の精子は認められるものの妊娠のレベルにはない場合になります。
さらにこの方法は、第三者の精液を用いるため、倫理感や宗教的、法的問題を含んでいることにも留意しなければなりません。