コラム

「不妊」について

女性の不妊

晩婚化に伴い、当然子供を産む年齢が高齢化する「晩産化」 も着実に進行しています。2011年の政府統計では、第1子出産時の母親の年齢が30.1才と初めて30才を超えました。生まれた子供の数も105万人強で調査を始めて以来最少となっています。特徴的なのは、34歳以下の女性の出産が減少傾向にあるのに対して、35才以上のアラフォー世代の出産が増加傾向にあることです。
不妊治療の現場にも高齢化の波は押し寄せています。不妊治療を行っているクリニックの医師の実感として、「もともと比較的高齢の患者さんは多かったけれど、ここ数年で一段と初診年齢が上がっている」という声が聞こえてきます。以前は30代前半だった初診患者の平均年齢が、最近では3839歳のアラフォー世代が中心になり、患者のおよそ半分は40代になっているそうです。
日本産婦人科学会が公開している不妊治療を受けた患者の全国データでも、40代の割合は2009年には34.4%になり、しかもなお増加傾向にあります。
2006
年にプロレスラーでタレントのジャガー横田さんが45才で妊娠、出産し、大きく報道されました。その影響で、「自分でもまだ産めるのでは」との期待を持つ40代の初診患者がかなり増えたという現場の声もありました。

子供が欲しいと、真剣に妊活に取り組んだアラフォー世代の女性たちが、そこで初めて直面するのが、高齢での妊娠そして出産の難しさです。
妊娠は精子と卵子が受精して初めて成り立ちます。卵子の数は、女性が母親のお腹の中にいる時がピークで、その後閉経年齢まで減り続けて行くのです。一方精子は、毎日新しく作られるのに対して、卵子は減り続け、しかも老化するに従って妊娠力は落ちてゆきます。
ある不妊専門誌のデータでは、19~26歳の女性では自然妊娠の確率が50%ぐらいあるのに対して、27~34歳では40%位に、35~39歳では30%位まで落ちてしまうそうです。
女性が自然妊娠する確率は20代後半から確実に落ちて行きます。40代での出産例は確かに増加していますし、妊娠力に個人差もあるのですが、一般に加齢した卵子では妊娠に結び付く確率は下がります。この卵子の老化についての情報が、まだ十分に浸透していないのは大きな問題です。妊活を始めて、初めてこの事実を知り、もっと若い時から取り組んでいればと悔やまれる方は大変多いです。

女性の不妊原因で最も多いのは、「排卵因子」です。
「排卵因子」は体質のほか、過度なダイエットやストレス、ホルモン異常、そして、卵巣組織に小さな卵胞(卵の袋)がたくさん発生し、卵巣が腫れて大きくなる「多嚢胞性卵巣症候群」などによって、卵子が排卵されにくい、あるいはまったく排卵されないというものです。
排卵因子のほかにも、卵管が詰まったり、癒着が生じたりすることで、精子と卵子が出会えなくなる「卵管因子」、子宮の形に異常があったり、筋腫などがあることで胚が子宮に着床しにくい「子宮因子」、膣から最も近い頸管に異常があり精子が子宮内に入りにくい「頸管因子」など、様々な原因があります。
近年、女性の晩婚化と初産年齢の高齢化に伴って、子宮内膜症や子宮筋腫などの婦人科系疾患が増えていることも、不妊を招く原因として問題視されています。
子宮内膜症は、本来子宮の内側にあるべき内膜が外側にもできてしまう病気です。
子宮内膜症があると、腹腔内に癒着が起きて卵管を閉塞させてしまい、卵子を取り込めなくなります。その結果、受精できず不妊症に至るケースが多くなります。
このほか、20~30代の若い女性のがん罹患率で最も高い子宮頸がんや、30代に急増する乳がんも、妊娠・出産の妨げになります。放射線や抗がん剤による治療期間中は妊娠を控える必要がある上、症状によっては子宮や子宮周りの臓器を摘出しなければならない場合があるからです。

また不妊の原因の一つに、女性の年齢があります。
現在、不妊のカップルが増えているのには、いくつかの社会的背景がありますが、最も大きいのは女性の社会進出と晩婚化にあります。女性にとっての妊娠適齢期は20代と言えます。30歳を超えてから結婚し、仕事の都合などでほんの数年間避妊をすると、あっという間に35歳を過ぎてしまいます。35歳を過ぎての初産は現在では珍しいことではありませんが、35歳を過ぎると、年を追うごとに妊娠しにくくなることを知っておく必要があります。
女性は生まれた時、既にその体内に原子卵胞という卵子の素を持っています。そして思春期になると、そこから毎月1つずつ成熟した卵子が飛び出し、卵管の中で精子との出会いを待ち、思春期には未熟だったその機能も20代には充実し、30代からは少しずつ卵子の老化という現象が起こります。35歳を過ぎると、その老化のスピードはグンと速くなります。体外授精では、どれだけ質の良い卵子を得ることができるかが重要です。個人差があるものの、女性の年齢が35歳を過ぎたら、体外受精の順位は高く考えた方がいいと思います。
男性は、女性に比べて年齢の影響はさほどありませんが、精子のコンディションはストレスなどの影響を受けやすいので、仕事の責任が重くなる40代になると、精子の数や状態が悪くなってしまうことがしばしばあります。

最近増えている子宮内膜症も症状、病期によっては体外受精の適応となります。子宮内膜症の病期は14期に分けて診断されますが、その34期、子宮内膜症の症状がひどい場合です。子宮内膜症とは、本来は子宮内部で成長する子宮内膜が子宮以外の場所、卵管や腹腔などに増殖する病気で、これが障害となって卵子はその通り道をふさがれたり、着床できず、受精や妊娠に至ることができないことがあります。子宮内膜症は生理があるかぎり、悪化しやすいので、一時的に生理を止める治療が行われることがあります。偽閉経療法や男性ホルモンを投与する治療法がそれですが、いずれも46か月の間生理を止めることになります。これは、妊娠を望む人にとっては辛い選択です。また、偽閉経療法は、子宮内膜症の治療としては有効でも、最終的な妊娠率は向上しないという報告もあります。従って、女性の年齢が高かったり、不妊治療歴が長いケースでは、体外受精にステップアップ、ジャンプアップすることが大きな選択肢となります。

検査と治療の方法ですが、まずは腹腔鏡検査です。お腹に小さな穴を開けて、そこから内視鏡を入れて内部の様子を観察したり、場合によっては治療を施すというものです。欧米では機能性不妊(原因不明不妊)という診断をするためには、腹腔鏡検査が必須項目として位置付けられています。ところが、腹腔鏡は手術室で全身麻酔下で行う治療で、リスクも伴います。不妊治療が大病院からクリニックにシフトしている日本の現状では、どこでも行えるものではないわけです。従って、これをどう位置付けるかは非常に難しく、腹腔鏡を全く評価していないところもあれば、非常に重視しているところもあるという現状です。
更に、この検査は、医師の技量に頼る部分が大きいため、腹腔鏡検査どうするかは病気の状態と、医療機関の考え方をよく話し合って決めることになります。子宮内膜症の34期に体外受精が有効といわれていますが、その前に腹腔鏡検査を行うことは選択肢の一つです。これは子宮内膜症の状態をチェックし、場合によっては、腹腔内の癒着などをその場で取り除く検査ですが、内膜症が12期の場合、この腹腔鏡検査後、自然周期で妊娠したという報告は多数あります。腹腔鏡検査では検査後、生理食塩水などで腹腔内を洗浄することにより、子宮の周囲の癒着が改善し、妊娠しやすくなると考えられます。
子宮内膜症などで、腹膜癒着が疑われるケースでは、腹腔鏡の適応になると思います。腹腔鏡検査を行い、そのあと半年~1年の間はタイミング法で妊娠にトライしてみるという選択肢もあります。しかし、これだけIVFが普及してくると、リスクを伴う腹腔鏡よりは、それを飛ばしたいと考える方もあるでしょう。腹腔鏡検査は治療費も高額で、IVFまではいかないものの、それに近い額がかかります。そうすると、腹腔鏡をとるか、体外受精をとるかという一つの選択肢もないのではないということになります。 一度腹腔鏡の検査をするとしばらくは自然妊娠の確立があがるので、自然妊娠にこだわりたい方や、年齢的に余裕がある場合には、妊娠に近づくための一つの手段として、選択肢に入れてもよいのではないでしょうか。
腹腔鏡検査は、通常全身麻酔下で行う手術に準じた検査です。技術は良いにこしたことはありませんが、気をつけておかなければならないのは、腹腔鏡検査の技術や、それに伴う入院日数は医療機関によりまちまちだということです。入院日数はそれぞれのライフスタイルに直接関係してきますので、自分に合った施設を選ぶことが重要です。
子宮卵管造影検査に関しては、女性の年齢にもよりますが、腹腔鏡とは違って必須の検査だと思います。これによって卵管の通過性の有無を確認できます。また、子宮卵管造影を行った後に妊娠しやすくなるという事実があります。しかも、腹腔鏡のように高額ではありません。若干痛みを伴いますが、自分の状態を知ることは大切だと思います。ジャンプアップという選択肢があるにせよ、子供がほしいからすぐ体外受精というのは極端な考え方だと思います。自分の状態を画像情報として得られ、しかもコストパフォーマンス、あるいはリスクパフォーマンスを考えた場合、子宮卵管造影検査のもたらす情報と治療効果は非常に大きいといえます。子宮卵管造影検査では、キャッチアップ障害についてもある程度の情報を得ることができます。両方の卵管が詰まっていたら体外受精が唯一の選択肢ですし、卵管因子の場合における体外受精での妊娠率は高いという事実もあります。子宮卵管造影検査はX線検査の一種で、卵管の通りと子宮の形態が正常かどうかを検査するものです。造影剤を子宮内に注入し、卵管に達し、卵管が通っていれば、造影剤は骨盤腔に達するため通過性が分かります。この検査は外来検査で30分で終わります。
妊娠早期に検査するのを避けるために、生理が終わった後、排卵期に行います。子宮卵管造影検査による放射線被爆量は、消化管の造影検査などに比べれば、問題にならない極わずかな量であり、検査を行った周期に妊娠しても大丈夫です。