コラム

不妊治療

不妊治療の費用

不妊治療には、大きく分けて一般不妊治療と高度生殖医療(ART)の2種類があります。実際にどれぐらいかかるのかを治療のステップを追って見てみましょう。
最初は検査です。検査は大体どこの病院でもほぼ同じです。
癌検査と精液検査以外は、基礎体温表の周期に合わせて進めますので、すべての検査が終了するのには45週間かかるのが普通です。検査はほとんどの項目で保険が適用されますので、女性の初診検査は1万2~3千円程度、男性の精液検査は56千円程度です。卵巣年齢を調べるアンチミュラーリアンホルモン(AMH)」検査は保険適用外になります。検査は不妊原因を調べるためのもので、不妊症と診断するためのものではありません。検査が終わって、原因不明であれば、異常が無いということですので、よかったと思って下さい。
基本的に、検査だけで治療が終わることはありません。不妊治療のゴールは子どもを授かることですので、ここからがスタートです。

不妊治療には、癌などの病気に見られる「標準治療」や「治療ガイドライン」などがありません。その理由としては、カップルごとに不妊の原因が異なることや、原因不明が多いこと、妊娠という明確な結果に重点が置かれる点などがあげられます。そのため、通常それぞれのカップルにあったオーダーメイドの治療が行われます。
一般に不妊治療は、3つのステップに分けられます。第1ステップはタイミング法、第2ステップは人工授精で、ここまでを一般不妊治療、第3ステップの体外受精(IVF)からは高度生殖医療(ART)と呼んでいます。患者さんの個別の症状や状態などに応じて、(1)(2)(3)とステップアップして行きます。不妊治療を妊娠率と治療にかかる費用の観点から見ると、治療がステップアップすればするほど、妊娠率は上がりますが、身体への負担や費用は大きくなります。

第1ステップのタイミング法とは、排卵日の前後に性交渉を行う方法です。
基礎体温表をつければ、自分でもある程度は排卵日を予測できますが、病院で超音波検査を行うと、より正確に排卵日の予測ができます。若いカップルで時間的に余裕があり、何の問題もない場合はタイミング法がお奨めです。
数年妊活をしたにも拘らず子宝に恵まれないカップルの場合、年齢も35歳以上が多くなり、タイミング法の妊娠率は実際のところ56%に過ぎません。
ですから、30代後半の方は早めに人工授精に移ることを考える必要があります。
タイミング法や排卵誘発などの治療は保険が適用されますので、費用は1回あたり数千円程度です。

第2ステップの人工授精とは、細いチューブを用いて、精子を女性の子宮あるいは卵管に人工的に送り込む方法です。
授精は患者さん本人の卵管で行われますので、完全な自然妊娠です。男性は、「人工」という言葉に抵抗を持つ方が多くいます。男性が「そんな人工的なことまでして子供は欲しくない」と言って、治療が進まないケースがよくあります。女性のやる気が十分であれば、しっかりと説明して男性にもわかってもらう必要があります。
精液所見が正常な男性と不妊原因が認められない女性のカップルの場合、人工授精の1周期当たりの妊娠率は、7~9%程度です。4~5周期続ければ累積妊娠率は20%程度にまで上がります。ただ、それ以上回数を増やしても妊娠率は向上しませんので、5周期行っても妊娠しない場合には体外授精へのステップアップを考えた方が良いと思います。人工授精の費用は1回あたり15千円~2万円です。
不妊治療は高額なイメージがありますが、人工授精までなら、家計を大きく圧迫するほどの負担にはならないレベルです。

第1ステップのタイミング法と第2ステップの人工授精で、23年に内に45割の方が妊娠しますが、成功率は施設により多少のばらつきがあるようです。タイミング法と人工授精で妊娠しない場合、普通は2年間、35歳以上の方約半年で、体外受精へ移ることを勧める病院が多いそうです。患者さんにすぐに体外受精を勧める病院もありますが、できるだけタイミング法や人工授精による自然妊娠の可能性を追求するのが良いのではないかと思います。

第3ステップの体外受精とは、卵管を経由しない授精の方法です。卵巣から卵を取り出し、精子と卵子を培養液の中に入れておくと、卵管内で授精するのと同じことが起こります。この受精卵を子宮の中に移植することで妊娠することが出来ます。
通常の体外受精で受精しない場合には、顕微授精もあります。これは、顕微鏡で観察しながら細い針に1個の精子を吸引し、1個の卵子の細胞質内に注入する方法です。精子の数が少ない方や、精子の運動率が低い方に有効な方法です。年齢にもよりますが、体外受精による妊娠率は、1回当り3045%です。45回行えば8割ぐらいの方は妊娠できます。体外受精は保険適用外でしたので、1回当り2060万円かかります。しかし令和44月より、人工授精等の「一般不妊治療」、体外受精・顕微授精等の「生殖補助医療」(高度生殖医療)について、保険適用されることになりました。また所得によっては、国からの補助や独自の補助金制度を実施している自治体も多くあります。

通院の頻度についてですが、タイミング法や人工授精の場合は排卵日の前後に集中して23回の通院の必要があります。体外受精の場合は注射を打つ必要もありますので、月に45回の通院が必要です。

最後になりますが、卵子の老化との戦いで不妊治療に取り組むには、一定の費用の支出を覚悟しなければならないわけです。
もう一つ知っておくべきは、不妊を招くリスク要因は年齢だけではないということです。その第一は喫煙です。卵巣機能を低下させたり、閉経を早めたりします。妊娠率やARTの成功率にもマイナスの影響があります。肥満や過度なダイエットも、ホルモンバランスを崩して月経異常や不妊を招きます。このほかにも、糖尿病などの生活習慣病や、感染症、飲酒などにも注意が必要です。
現在の晩婚化時代に在っては、結婚してから妊娠について考えるのでは遅すぎるといえます。できれば20代のうちから、遅くとも30代前半には妊娠・出産についての正しい情報を収集して、悔いのないライフプランを築いて行くべきではないでしょうか。