コラム

「妊娠しよう」と考えた時に

婦人科検診のすすめ

既婚の女性ならともかく、独身女性にとって婦人科の門をくぐるというのは、かなり抵抗があると思います。日本の病院は大きな看板を出していますから、「婦人科」や「産婦人科」の門をくぐると、なぜか妙に周囲の目が気になり、入っていくところを見られたら、どんな噂をされるか分からないなどと考える女性が多いようです。しかしネガティブな先入観を捨て、「いつか子どもを産みたい」と漠然と考えている女性も、「子どもはいらない」と考えている女性も、自分自身の健康管理のために、勇気をもって「婦人科検診」を受けてみる、その第一ステップが重要です。
まったくの健康状態で、生理不順や他の月経関連の気になる点がない女性でも、まずは検診、生理不順があればなおさら検診を受けるのは早い方がよいでしょう。子宮頸がんや乳がんも、初期診断があれば完治する可能性の高い病気です。元気で長い人生を送るためにも定期的な健康診断で、このようながんの検診も受けるべきです。20代での子宮頸がん発症の診断が遅れて、「子宮全摘」という処置を受けざるを得なくなった女性がなんと多いことでしょうか。子宮頸がんの治療のために、化学療法や放射線治療を受けたことで、がんは完治したものの、卵巣機能を失ってしまう女性も多くいます。これらは、本当に悲劇としか言いようがありません。未然に防げるものならそれに越したことはない、というのは当然です。

一般婦人科検診のことを「ブライダルチェック」といった華やいだ名前で、女性の全般的な検診を行っている婦人科は少なくありません。「花嫁」というと、結婚が決まった女性が婦人科検診を受けておく、という印象がありますが、これはなにも結婚が決まったから受ける資格ができる、というものでは決してなく、同様の婦人科検診をどなたも20代でまず一度は受けておくべきです。あなたが30代以上の年齢の女性で、まだ一度も婦人科検診を受けたことがないならば、できるだけ早く検診を受けることをお勧めします。もちろん、結婚が決まっていたり、すでに結婚した後の女性でも、自分自身の「妊娠・出産力」を確認するためと健康のために、必ず受けてみるべきだと思います。
検診には、必ず「内診」がありますので、やはり抵抗のある女性は多いと思います。実際、膣の中へ診察用の器具を挿入したりすることを考えると、恥ずかしさや恐怖が先立つかもしれませんが、自分の健康と命のため、これは我慢して受けてみることです。女医さんがいる婦人科を探してみるのも一つの手段でしょう。以下のチェックポイントは、すべて「妊娠・出産」の観点からのチェックポイントです。それらの検診に於いて、何らかの診断を受けた場合は、私のコメントがない場合でも、担当医師と相談して下さい。

婦人科検診の最初は問診です。まずは生理の状態をチェックします。定期的な周期かどうか、出血量や生理痛の度合いはどうか、そういったことから判明する疾患もあります。疾患とまではいかずとも、ホルモンの状態をコントロールして日常生活に影響をきたすような重い生理の症状を緩和することができるかもしれません。生理については、自己診断で見つめ直して、自分で気づいた点を受診時に医師にお話ししましょう。また受診時の質問に直ぐ答えられるよう、まず前回の生理開始日と、普段の生理周期の日数を計算しておきましょう。
次は、家族の医療歴です。家族の医療歴を検討することで、その女性の母親あるいは親族に出た疾患なども検討することができます。特に、乳がんなどは、家系によりリスクが高いなども指摘されることがあります。いろいろな事実を知ること自体、怖いことかもしれませんが、現代医学では「先に知る」ことで、あとで問題を回避できる状況が多くありますので、ご自身のお母様と話をする機会をもち、そして勇気を持って問診に臨みましょう。また、家族や近い親戚の中で、お子さんのいらっしゃらないご夫婦が居られたり、不妊に悩まれた方がいらした場合は、原因を知っていても知らなくても、一応担当医師に話しておく方が好いでしょう。

婦人科検診でも一般健康診断もあります。血圧、脈拍、身長、体重などを計ります。尿検査で糖尿症状がないかなども調べることがあります。胸部レントゲンを行う場合もありますが、レントゲンは、妊娠している場合には胎児にとって危険になり得ますので、妊娠の可能性が少しでもある場合は、必ず医師にその旨を伝えて下さい。
次は触診です。乳がん検査の第一ステップとして、乳房や脇の下の触診により、しこりや腫れなどがないことを確認します。がんではなくても、乳腺炎などの診断につながることもあります。
腹部の触診によって、子宮筋腫の可能性を調べます。子宮筋腫は、自覚症状がない場合も極めて多く、妊娠・出産が視野に入っていない時は、日常生活に全く悪影響を及ぼすことがない場合もあります。しかし妊娠を望む際、筋腫の位置や大きさによっては、卵巣に全く問題がなくても、妊娠そのものを阻む場合もあります。
初めての婦人科検診の場合、抵抗があるのが内診だと思います。しかし、内診によってはじめて診断できる症状や疾患があります。膣からの検診・触診などで、腹部からの触診では分からない筋腫やポリープなどが判明することがあります。
超音波検診は、膣から超音波プローブという器具を挿入し、超音波画面で子宮の状態や卵巣の状態を調べる検査です。この検査は希望しなければ行われないこともあります。
血液検査で、ホルモンの状態、貧血症状があるかどうか、感染症や性病の有無、妊娠期に初回感染すると胎児にリスクが発生する風疹や水痘水疱瘡などへの交代などを調べることができます。もし風疹や水痘への抗体がない場合(予防接種を過去に受けただけの場合、稀に抗体が消えてしまっていることもあります)は、妊娠に備えて予防接種を受けておくべきです。但し、これらの予防接種は生ワクチンなので、ワクチンを受けた後数か月は妊娠しないことが勧められます。避妊期間を含め、詳細は医師にご相談下さい。
甲状腺に問題がある場合は、妊娠しにくくなっていることがありますが、投薬で対処することが可能です。
血液型をはっきり知らない場合は、この時に同時に調べてもらえると思います。
クラミジアに感染したことがある場合など、自覚症状が通常ないので、放置された状態だと、不妊症につながることがあります。
その他、必要にお応じて、担当医からほかの血液検査も勧めらるかもしれません。
子宮の粘膜を拭い取り、検査に出すことで、子宮頸がんの検査を行います。簡単に終了できるのに大変有効な検査であり、20代からできれば毎年検査するのが有効です。内診の際に併せて行われることが多いでしょう。
子宮頚部粘膜テストはクラミジアの検出を行います。
尿検査は、糖尿症状が出ていないか、感染症がないかを確認します。
一般的には、ここまでに述べたような検査が行われますが、ほとんどの方は「異常なし」という結果が出されることでしょう。まずは第一関門突破です。

直ぐに子供が欲しい場合の検診は、一般検診だけではなく、その旨をはっきりと医師に伝えましょう。個々のケースに従って、あるいはあなたの年齢に従って、医師が指導をしてくれるでしょう。
多くの医師は「基礎体温表をまずつけてきて下さい」と指示することがあります。これは、意味のある基礎体温表を得るまでに、少なくとも月経周期の2周期分が必要となりますので、およそ2か月を要することになりますので、思い立ったらすぐつけ始めましょう。基礎体温というのは、風邪を引いて熱が出た時などに使用する体温計とは全く別の、「婦人体温計」を使用します。薬局で市販されており、毎朝起きた時に、口に含んで数分間計測するタイプのものが主流です。最近では簡単に計測できる電子婦人体温計も市販されていますし、コンピュータ内蔵の自動記録・グラフ表示機能が付ているものもあります。
もし、あなたが既に37才以上の場合は、悠長に2か月間の基礎体温データを得るのを待っているわけにはいきません。その間になにかできることはないか、積極的に進められるよう医師と予約可能な必要検査などを、相談するのも有効な手段の一つです。