コラム

日本と世界の違い

日本と世界の違い(2)

ヨーロッパ諸国と日本の違いについてみてみます。
まずフランスでは、男女が43歳未満で子供ができないことは「疾病」と考えられています。そのため不妊治療にも保険が適用され、ほとんど無料で治療が受けられます。フランスは外国人を除き、国民全員が国民健康保険に加入しています。専業主婦は夫の保険に加入し、仕事をしていない未婚女性もCMU(普遍的疾病給付)に加入するため、医療費はほとんど無料です。その中のAMP(生殖補助医療)保険は、43歳未満であれば、人工授精6回、体外受精4回までは100%保険でカバーされます。また卵子提供であれ、精子提供であれ、不妊治療と呼ばれるものにはすべて保険が適用されています。しかし保険が適用されるのは43歳未満で、それ以降は日本と同じように自己負担での治療になります。つまりそれは、43歳以上は「疾病ではなく、自然な老化による不妊」と判断されているのです。
不妊治療(体外受精)を行う平均年齢が最も高い国の一つが日本です。40歳以上が全体の30%を超えています。一方フランスは、40歳以上が14%で、30~34歳が最も多く34%になります。これは健康保険が適用される年齢を43歳未満にすることで、早い段階で治療に取り組ませ、体外受精の妊娠率を高めているということでもあります。フランスでは、不妊治療を受けられる人は、「不妊症である」か「子供に遺伝病を与える、または配偶者にウィルス性の疾病を与える可能性がある」と診断された「カップル」と定義されています。この「カップル」には、婚姻関係にある夫婦に限らず、「事実婚」や「恋人」もこの範囲に入れられています。また不妊治療を受診する場合、「男女そろっての診察」が法的に義務付けられています。なぜなら、現在、男性側に不妊の原因がある場合が、全体の40%を占めており、それは精子の数が30年前に比べ約2分の1になっているからです。この原因として、環境やストレス、そして食べ物の影響が考えられています。
フランスは、公的な様々な施策により、合計特殊出産率(2013年度)が2.01と、EC先進国の中でも最高値にあります。
一方日本は、1970年代後半から減少が続き、2005年に1.26まで落ちこみました。その後は緩やかに回復し、2015年には1.46と回復傾向にありますが、他の先進国と比較しても最低値にあります。出生率がこのまま1.4程度で低迷すると、約50年後には人口が今より3割少ない8千万人台半ばにまで落ち込むと推計されています。このような出生率の低下による
少子化が続き、同時に高齢者人口が増える高齢化、つまり少子高齢化による労働人口の減少は、年金や医療など社会保障の弱体化や経済の低迷につながり、社会に様々な問題をもたらすと言われています。

ヨーロッパ諸国で日本と同様に卵子提供による不妊治療を禁止している国は、イタリア、ドイツ、オーストリア、スイスとごくわずかな国です。その他の多くの国では、一定の規制の下にそれを認めています。
スペインは、卵子提供による不妊治療を認めている国の中でも高い不妊治療技術を持つと評価されています。またスペインは、不妊治療に関し、ほとんど法的規制がなく、禁止されているのは、「男女の産み分け」と「代理出産」くらいです。スペインが特徴的なのは、婚姻関係がなくても、事実婚のカップルだったり、単身女性だったり、同性愛女性だったりでも、治療を受けることができる点です。この国は、卵子提供自体が合法であるため、若く健康なドナーの卵子であふれています。その数は、2011年に約11万個で、欧州全体の40%を占めています。 また凍結されている受精卵(胚)は、スペイン国内に35万個も眠っているとも言われています。
スペインには、年間14000人もの外国人女性が不妊治療を受診するためにやってきます。その内の70%が卵子提供による体外受精と言われています。多くがヨーロッパ諸国からの患者ですが、あるクリニックでは、2012年に50人、2013年には55人の患者が卵子提供による体外受精のために、はるばる日本からやってきました。しかしスペインには、日本人の卵子ドナーの数は少なく、バルセロナにある日本食レストランや語学学校には、日本人卵子ドナーの募集広告が貼ってあります。
このクリニックが行った「卵子提供による体外受精」は年間約3000サイクルで、ヨーロッパ全体の約10%に相当します。またこの3000サイクルの中での、妊娠率は61%と公表されています。
スペインに不妊治療に来る大半の患者は、母国で成功しなかった比較的高齢な女性が多く、なかには50歳以上の患者も多数おり、日本人も例外ではありません。スペインでは、卵子を提供する事、受ける事、保存することまで合法的に自由に行えます。この自由なルールが、スペインの不妊治療を発展させた特徴だと言えます。

人口950万人のスウェーデンでは、年間17000サイクルの体外受精が行われています。2011年に体外受精で生まれた子供は、約4000人になり、そのうち卵子や精子提供で生まれた子供は約200人になります。女性は39歳、男性は54歳までの夫婦かカップルであれば、「第一子を産むまで」は保険により全費用が賄えます。単身女性への不妊治療や代理出産は法律により許可されていません。精子提供による不妊治療は、男女のカップルだけのためにあり、単身女性やレズビアン女性は例外となるため、彼女たちの多くは、隣国のデンマークに行って不妊治療を受けています。一般的にスウェーデンでは、他国に比べ若いうちから不妊治療を受ける傾向にあります。それは子供の頃からの教育により、どうすれば妊娠できるのかや卵子が時と共に老化する事は、誰もが知っていることだからです。したがって卵子提供を必要とする患者は、それほど多くはありません。先進国で働く女性たちが、40歳を過ぎてから不妊治療を開始するような現実がこの国にはありません。どうしても卵子提供が必要で、しかも急いで治療を受けたい場合は、私立のクリニックが多数ある隣国のノルウェーに行って治療を行っています。