コラム

「不妊」について

「不妊」 について

不妊という問題が切実な問題として身近に沢山あるにも拘らず、日本では不妊はオープンに語られてきませんでした。その背景には、不妊を恥じる日本人の文化があるのだと思います。
海外のある製薬会社が行った不妊に関する調査で、「不妊について家族や友人に相談し易いか」、「不妊治療に積極的に取り組みたいと思うか」という2つの問いに対して、イエスと答えた率は日本が最下位だったそうです。不妊の問題を自分達だけで抱え込んでいる、という日本の現状が浮かび上がっていますね。不妊治療を行うカップルの中には、それがきっかけで離婚することになってしまったり、うつ病になってしまったという例もあるそうです。不妊をタブー視することのデメリットはそれだけではありません。教育などの場で情報を得る機会が少ないので正確な知識が広がって行かないのです。ネット上には不妊に関する情報が氾濫していますが、根拠の薄いものも多く、また営利目的に偏ったものも少なくありません。

不妊の原因にはいろいろありますが、日本では「不妊は女性だけに原因がある」という偏見がいまだに強く残っています。WHO(世界保健機関)の調査では、男性のみに原因がある場合と男女双方に問題がある場合を合わせて、不妊の原因の約半分のケースで男性が関係しています。日本では前述の偏見のせいで、不妊治療が女性側に偏っており、男性側の対策はほとんどされていません。不妊治療は必ず夫婦揃って受診することが大前提で、男性の不妊原因に対する理解をもっと高めることが望まれます。
知識不足の2大問題は、不妊原因に対する理解不足と卵子の老化に対する知識不足です。女性の妊娠力は36歳を境として低下して行きます。先日引用した調査に於いて、卵子の老化についての日本人の正答率は30%に達しておらず、先進諸外国に比して極めて低い数字です。「卵子が老化する」という事実を見過ごし、出産を先送りにしてしまい、不妊治療で悩む人が増えているのです。身体の中で卵子だけが老化しないと考える人はいないでしょうが、女性が妊娠する力が意外と若い時期から下がり始めるという事実はまだ十分に理解されていないと思われます。

具体的な男女それぞれの原因ですが、男性不妊の場合には、精子の問題(無精子症・乏精子症)、精巣の問題(精索静脈瘤)、セックスレスの問題(EDや射精障害)などが考えられます。
次に女性不妊の場合には、排卵障害、子宮着床障害、卵管障害などの直接的な要因となる不妊体質、生理不順、生理痛、不正出血、などの身体的不安、また年齢的要因や、精神的ストレスなど、直接的ではないにしろ妊娠に大きく影響しそうな要因などいろいろな問題があります。
しかし不妊症の疑いがない男女が、排卵日に性生活をしても、妊娠する確率は20%程度(個人差があります)と言われていますので、妊娠とは、偶然に偶然が重なってようやく実を結ぶものと言えます。

厚生労働省が2007年に実施した「生殖補助医療技術に関する意識調査」によると、既婚者のうち「不妊に悩んでいる」または「過去に悩んだことがある」と答えた人の割合は、結婚期間23年で28&45年で22.3%69年で29.1%だったと報告されています。つまり、結婚10年未満の夫婦の2割以上が不妊に悩んだ経験があるということになります。

同じく厚生労働省の調査によると、平成23年の平均初婚年齢は、夫30.7歳、妻29.0歳となり、夫、妻ともに前年より0.2歳上昇しています。上記の調査から、日本では40歳位の夫婦の場合、30%弱のカップルが不妊で悩んでいると考えられ、不妊治療をするカップルの数は、年々増加する傾向にあります。
米国の場合、日本のように10年近くも不妊治療はせず、40歳以上の年齢だと、すぐに「卵子提供での体外受精」「代理母」や「養子」などの次のステップを勧められるといいます。